
「amazon配達員がクズだと思った体験」
夜。
雨がしとしと降る中、レッサー(旦那)は自宅でひとり静かに過ごしていた。
ピンポーン――玄関のチャイムが鳴る。
荷物です
その声は妙に低く、湿ったような響きを持っていた。
レッサーは小さく返事をしてドアを開ける。
外には、黒い帽子を深くかぶった配達員が立っていた。
顔は暗くてよく見えない。
サイン、お願いします
淡々とした声。
だが、その手が渡してきた段ボールの表面を、配達員はなぞるように指でなでた。
「……バンダイ」
ピクリ、とレッサーの眉が動いた。

え?
配達員はうっすら笑った。
“バンダイ”……いい趣味ですねぇ
ぞわっ――。
背筋に冷たいものが走る。
なぜわざわざ口に出す?
しかも、妙にねっとりした声で。
い、いや……まあ……
レッサーは苦笑いしながらサインを済ませ、早く終わらせようとした。
だが配達員は動かない。
バンダイ。ふふ……昔から“魂を込める”会社ですからね



え?
ほら、“魂ネイションズ”。……知ってますよね
笑いながら、ゆっくりと一歩近づいてきた。



やめてください
思わず声が出る。
その瞬間、配達員の笑みがピタリと止まった。
……いいですね、魂。
そう言い残して、彼は雨の中へ消えていった。
足音も、傘の音も、すぐに途切れた。
ドアを閉めたあとも、レッサーの心臓はドクドクと鳴り続けていた。
まるで何か、見えないものを家に入れてしまったような気がしてならなかった。
恐る恐る段ボールを見る。
“BANDAI SPIRITS”
その文字の下に、指でなぞったような跡が残っていた。



(……まさか)
そっと箱を開ける。
中には確かに、頼んだプラモデル。
けれど、パッケージの角に――黒い指跡のようなものが、べったりとついていた。



うわ、やめてくれよ……
レッサーは慌てて手を洗いに行く。
洗面所の鏡に映る自分の顔。
額に汗が浮かび、息が荒い。
……そのとき。 背後から小さな声がした。
バンダイ……
振り返ると、誰もいない。
ただ、玄関のほうから水の滴る音だけが響いていた。



まさか、まだ……
レッサーは恐る恐るドアを見た。
そこには――
配達員の伝票が、いつの間にか貼り直されていた。
宛名欄には、こう書かれていた。
「魂 様」
――バンダイの配達は、まだ終わっていなかった。
世の中変な人がうじゃうじゃいる


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