
いよいよ、出産予定日。
4か月の入院を経て迎えたこの日は、私にとって待ち望んだゴールであり、新しいスタートでもあった。
病室のドアが開く。

お待たせ!
57歳の夫――通称レッサーが、いつものマイペースな笑顔でやって来た。



早めに来てくれたんだね。ありがとう



当然だ! 俺は今日、立派なサポート役になる予定だからな



……いや、主役は私だからね?
そう、彼は17歳年上。年の差ゆえの心配もあったけれど、そばにいてくれるだけで、不思議と安心できる。
陣痛が始まり、私は息も絶え絶え。



大丈夫、大丈夫。俺が横で声をかけてやる!



声じゃなくて麻酔が欲しい……



いや、俺の声は天然の麻酔効果があるんだ!



むしろ騒がしくて痛み倍増なんだけど!?
それでも、合間にコンビニへ走ってご飯を買ってきてくれたり、背中をさすってくれたり。



ほら、このおにぎり!梅干しで元気出るぞ!



……私、今それどころじゃないんだけど



えっ、梅干しパワーは世界を救うのに!?
痛みで涙をにじませながらも、思わず笑ってしまう。
やがて分娩室に移動する時間が来た。
「よし、一緒に行こう!」と意気込む夫。
が、その瞬間――



ここからは立ち入り禁止です
夫は一瞬、固まった。



えっ……入れないの!?



当たり前でしょ!



でも俺、今日こそ“相棒”になるはずだったのに……



どこの刑事ドラマよ!
冷静を装いながら立ち尽くすその姿は、まるで漫才のボケ役そのもの。
でも私は知っている。心の中ではきっと私以上にドキドキしていたことを。



ありがとうね、レッサー
そう心の中でつぶやいた。
そして物語はここから始まる。
泣いて、笑って、突っ込みながら――私たち夫婦の「異次元育児漫才」が幕を開けたのだった。
わたしたちはこんな夫婦


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