
おしゃれな遊歩道を散歩する年の差夫婦の一コマ
久しぶりの晴れた休日。
「たまには散歩でもしよっか」と、カピー(妻)とレッサー(旦那)は連れ立って遊歩道へ。
穏やかな風、鳥の声、心地よい午後――の、はずだった。

ねぇレッサー、あのマンションいくら?
レッサーは一瞬立ち止まった。



……は?



いや、あそこ。ベランダ広いし日当たりよさそうじゃん。6000万くらい?



知らんがな!
彼は真面目に空の青さを感じようとしていたのに、妻はマンションの査定ごっこを始めている。



「せっかく気持ちいい風やのに、なんで値段の話になるん?



だって、見えると気になっちゃうんだもん。あ、あの角のタワマンも可愛い!



タワマンを“可愛い”って言う人、初めて見たで……
カピーは悪びれもせず笑う。



だって、タワマンっておしゃれで食べ物の配達も早そうじゃん



そこ!? 価値基準、完全に胃袋やん
彼女は食いしん坊で、食べ物に関しての判断力だけはプロ並み。
そして、時々毒舌。



レッサーってさ、真面目なのはいいけどさ、話が長いのよね



いや、そんなん言われてもやな……ちゃんと説明しようと思ったら長くなるやん



じゃあ、マンションの値段だけは短く説明して



……説明する気ないけど!?
レッサーは苦笑しながらスマホを取り出し、つい調べ始めてしまう。



ほら見てみ、あのマンション、実際は8500万もするで



うわ、高っ! じゃあもう少し歩こ。見るだけタダだし



いや、なんでそんな“物件見学ツアー”みたいになってんねん
彼は心の中で思う。
――今は値段より、この空気の気持ちよさを一緒に感じたい。
けれども、そんな想いを言葉にするより早く、カピーがまた指をさす。



あのマンション、角部屋っぽいね。きっと風通し最高



風は今ここでも感じられるけどな……!
レッサーの完璧主義も、妻の自由奔放さにはかなわない。
でも不思議なことに、そんなやり取りをしているうちに、二人の歩幅はぴったり揃っていた。



ねぇ、次はどっち行く?



もう好きな方行ってええよ。どうせ途中でまた“あれいくら?”って言うんやろ



バレた?



バレバレや
ふたりは笑いながら並んで歩いた。
夕暮れの風が少し冷たくなって、空がオレンジ色に染まっていく。
レッサーがふとつぶやく。



なぁ、空ってタダやけど、いちばん価値あるもんかもしれんな



じゃあ、その空の隣にマンション建てたらいくらになるかな?



もうええわ!
風が、ふたりの笑い声を運んでいった。
夫婦の時間は作ろうと思えば、どんなに忙しくても作れる。


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