
「きゃりーぱみゅぱみゅ好きなん?」「別に」
夕飯どき。
フライパンの油がパチパチとはねる中、レッサー(旦那)が突然言い出した。

つーけまつーけまつけまつげ〜♪
……え、は? カピー(妻)は一瞬、手を止めた。
聞き間違いかと思ったが、2回目もあった。しかも、妙にリズムが正確。



なにそれ



え? なんか頭から離れへんねん



きゃりーぱみゅぱみゅ好きなん?



いや、別に
この“別に”って便利よね。
全部それで片付ける気まんまんやん。
57歳が“つけまつげ”言うてる時点で、別にじゃ済まへんのよ。
その後も、唐突に始まるミュージカルタイム。
テレビもつけてないのに、レッサーの口から流れるメロディ。



迷っても嘆いても生命は〜♪
……LiSA。
よりによってLiSA。



え? アニソン好きなん?



いや、別に
いや、別にじゃないやろ。もう立派なファンやで。
ていうか、サビだけ急に熱唱するのやめて。怖いのよ。



何回もYouTubeで聴いてるんちゃう?



いや、たまたま流れてきて……



“たまたま”って言葉、どんだけ都合いいの?
まるで浮気の言い訳みたいな言い方すな。
カピーは内心ツッコミながら、ふと思う。
レッサーって、真面目で完璧主義なくせに、妙に中途半端なところある。
しかも自分では全く自覚がない。 次の日、また始まった。



うっせぇわ〜♪
Adoまで進出。音楽の旅は止まらない。



レッサー、もう“別に”じゃなくて、“中毒”になってるよ



いや、別に



まだ言う!?
完全に認めない系ファン。
推し活を全力で否定するスタイル。
でも、不思議とその姿がちょっと愛しい。
真顔で“つけまつげ〜”とか言ってるの、破壊力ありすぎて怒る気も失せる。
カピーはため息をつきながら思った。
――この人、もしかして無意識で笑い取りにきてる? そして、夜。
レッサーはまたスマホを見ながら鼻歌を歌っていた。



チョコレイト・ディスコ〜♪



Perfumeまで!?



いや、別に
もういい。
その“別に”は、世界で一番信用できない言葉だ。
でも、なんだかんだ言って、
その“別に”に笑わせられてる自分がいる。
――今日も平和な17歳差夫婦の日常である。
なんだかんだ試行錯誤しながら仲良くやっている


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