
『小さな救い』
次の日の朝も、レッサーはいつも通り一時間早く会社に着いた。
昨日までとは少しだけ違う。

「次元が違う人の悪口は届かない」——
カピーの言葉が、心の奥に小さな灯のように残っていた。
机の上に広げたファイルをめくる音。
まだ誰もいないオフィスは静かで、外の空気はひんやりしている。
彼はコーヒーを片手に、いつものように資料をまとめていた。 やがて、ドアが開く音。
おはようございます
振り返ると、いつもはギリギリに来る若い後輩が立っていた。



今日、早いね
レッサーさんが朝から頑張ってるの見て、真似してみようかと
それは、ほんの一言だった。
けれど、胸の奥で何かがじんわり溶けた。
自分のやっていることが、誰かを動かすなんて思ってもみなかった。



そっか。嬉しいな
レッサーは、自然と笑っていた。
その後、職場では相変わらず、ひそひそ声が聞こえた。
「また朝から勉強してるよ」「そんなに頑張ってどうするの」
でも、もう不思議と心は波立たなかった。
その代わりに、隣でファイルを開く後輩の姿が見える。
誰かひとりでも理解してくれる人がいれば、それで十分だった。 昼休み、休憩室でひとりコーヒーを飲んでいると、別の同僚が声をかけてきた。
レッサーさん、この前の資料まとめ、すごく助かりました



え?あれ、見てくれてたの?
もちろんですよ。実はあのマニュアル、私も参考にしてます
たったそれだけの会話だったけれど、心の中に静かに光が灯るようだった。
見えないところで、ちゃんと見ている人はいる。
カピーの言葉は本当だった。 帰り道、夕暮れの空を見上げながら、レッサーはふと思った。



世の中って案外、悪意よりも優しさのほうが多いのかもしれないな
家に帰ると、カピーが湯気の立つ鍋をかき混ぜていた。



おかえり。今日も早く出たの?



うん。でもね、少しいいことがあった
レッサーはそう言って、カピーの隣に立った。



ほらね、ちゃんと見てる人はいるでしょ
カピーが微笑む。
その言葉に、レッサーは静かに頷いた。
悪口も、笑い声も、風に流れていく。
残るのは、自分を見つめてくれる人たちの温かさ。
それだけで、また明日も少しだけ早く出勤してみようと思えた。



悪口言うひとは次元が違う。
レベルアップしようとしているひとの足を引っ張ることでしか
精神を保てないの。
もがきながらも、自分を諦めないひとになりたいな。
仕事をやめた旦那が知人に連絡したら、それぞれ違った回答が返ってきた。


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