
ある日の夕方。
リビングのドアが勢いよく開いた。
レッサーカピー!見てこれ!やばくない!?
レッサー(旦那)がスマホを握りしめ、息を切らせながら突進してきた。
画面には、巨大なロボットの写真がずらり。



これ、1/1スケールのボトムズ!で、こっちはダグラムのコックピット!



ふーん……



で、こっちは宇宙の戦士のパワードスーツ!実物大!人が乗れるんやで!
息子を見守る母のような気持ちで、私はただうなずいた。



……そうなんだ
でも、正直言う。
何がどう“やばい”のか、さっぱりわからない。



いやー、これ、マジで夢なんよ!子どもの頃からずっと憧れてて!
レッサーの目はキラキラしていた。
57歳のキラキラ。
まぶしい。
1/1スケールのボトムズから離れないレッサー
宇宙の戦士のパワードスーツでは
気に入るまで写真撮影つきあわされた
そのたびに解説とうんちくの嵐



やめて!



話が長がっ



熱量キモッ
語彙が完全に“少年”に戻っている。



ねえ、それ、私に説明して何の得があるの?



いや、共有したいねん!



共有っていうか……押し売りじゃない?
スマホの画面をスクロールするたび、ロボットのパーツがズームで映る。
機械の腕、脚、配線、スラスター。
……どれも同じに見える。
それでも、楽しそうに話す夫を見ていたら、なんだかこちらも笑えてきた。



まあ、楽しかったならいいけど



え? いいとかじゃない!最高やった!夢叶った感じ!
その勢いのまま、レッサーは翌日、職場でもその写真を見せまくったらしい。
そして夜、誇らしげに言った。



同年代の男連中、みんな“うらやましい”言うてたで!
私はお茶をすすりながら静かに思う。



(……うらやましがる要素、どこ?)
でも、たぶん彼らには通じる“ロマン”があるのだろう。
私には理解できない“少年心”という名の永遠の燃料が。
その夜、寝る前にふとスマホを見たら、レッサーからLINEが来ていた。



──「次は1/1ガンダム行こうな!」
いや、誘うな。
それでも、彼が夢中になってる顔を見ると、少しだけ“いいな”と思ってしまう。
好きなものがあるって、やっぱり人を若くする。
……でも。
次の週末、ロボットじゃなくてスイーツフェスに行きたい。
今度は私が「やばい!」って叫ぶ番。
台湾旅行でまでガンプラを覗く旦那・・・




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