
「天才やん」
つーちゃんノンノンノン
その響きは、まだ意味を持たないはずなのに、不思議と心に残った。
つーちゃんは、最近よく声を出すようになった。



マママ



パーパー
途切れ途切れの音が、部屋の空気をやわらかくしていく。
旦那はそのたびに、まるで奇跡を目撃したかのように顔を輝かせる。



天才やん
大げさだと思いながらも、私は何も言わない。
その無邪気な喜び方が、少し羨ましかったからだ。
「ノンノンノン」は、なぜか旦那のお気に入りになった。



これ絶対、意味あるで
根拠のない確信を口にする。
でも、その“信じる力”は、少しだけまぶしい。
私は思い出す。
つーちゃんがまだ言葉にならない声しか出せなかった頃。
何度も、何度も話しかけた。



おはよう



今日はいい天気やね



お腹すいた?
返事はなくても、続けた。
届いているかどうかも分からないまま、それでも声を重ねた。
正直、孤独だった。
一方通行の会話。
反応のない時間。
自分だけが必死な気がして、少しだけ心が沈む日もあった。
それでもやめなかったのは、
いつか、この声が届く日が来ると信じていたからだ。
そして今——



マママ
その一音が、すべてを報われた気にさせる。
旦那は気づいていない。
この変化の裏にある、静かな積み重ねを。
でも、それでいいと思う。
彼は彼で、つーちゃんの“今”を全力で楽しんでいる。
私は、少し前の“積み重ね”を抱えている。
どちらも、同じくらい大切だ。



ノンノンノン♪
つーちゃんが笑う。
意味はまだ分からない。
でも、その音の中には、確かに“誰かの声を覚えてきた気配”がある。
私はそっと微笑む。
言葉は、突然生まれるものじゃない。
見えないところで、静かに育っていくものだ。
そのことを、
この小さな声が、教えてくれた。
娘がはじめて話した日











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