
「ミーノの職場にさ、ヤバいのおるらしい」
レッサーなあ聞いてくれや
旦那が珍しく疲れた顔で帰ってきた。



ミーノの職場にさ、ヤバいのおるらしい
“ヤバい”という言葉は便利だが、だいたい本当にヤバいときにしか使われない。



どんな人?
と聞くと、旦那は少し間を置いて言った。



仕事中に『もうやる気ない』『早くクビにしてくれ』って普通に言うねん
それだけでも十分アウトだが、まだ序章らしい。



しかもさ、『投資で儲かってるから余裕やねん』とか言うらしい
私は一瞬、言葉を失った。
それは“職場で一番言ってはいけないやつ”だ。



でな、ミーノが席立つやろ?



うん



トイレ行くだけでついてくるねん



え?



“ミーノミーノ聞いて”って
想像しただけで、じわじわ怖い。
仕事ができないとか、やる気がないとか、そういう次元じゃない。
“距離感が壊れている”。



ずっと喋るらしいで



何を?



さっきと同じ話
それはもう、会話ではない。
反復だ。
私は少し考えて、ぽつりと言った。



……その人さ
旦那が「うん」とうなずく。



誰にも相手にされてないんじゃない?
旦那は少し黙ってから、苦笑いした。



たぶんな
強がりみたいに“投資で儲かってる”とか言いながら、
本当に欲しいのは、そんな話を聞いてくれる誰か。
でも、その話し方のせいで、誰も近づかない。
だから——
唯一、逃げ場のない場所。
職場で、捕まえる。



ミーノ大変やね



ほんまにな
旦那はため息をつく。
私は少しだけ、その人のことを想像する。
空気を読めないんじゃなくて、
“読めなくなった人”。
強く見せてるだけで、
中身はたぶん、けっこう寂しい。
……まあ、それでも。



職場でそれはアウトやけどね



それはほんまにそう
優しさと現実は、だいたい両立しない。
職場のやばいやつシリーズ









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