「ただ眺めているだけで幸せになれる日が来るなんて」
私たち夫婦は、たぶんちょっとヘンだ。
つーちゃん（娘）を抱っこしていると、
気づけば二人して無言になり、
ただただその顔を眺めてしまう。
笑っても、泣いても、寝息だけでも、
どうしてこんなに胸がじんわりするんだろう。
レッサー（旦那）がつーちゃんをのぞきこむ。
顔のシワがふわっと緩んで、
まるで若い父親に戻ったみたいに目を細める。
レッサーカピー……ほら……寝た……
カピーうん、知ってる。見てた
レッサーなんかさ……ずっと見てたいな
そんなことを言いながら、
彼は40代でも30代でもない、
**“50代後半の父親の顔”**になっている。
その顔を見るたび、私は胸がぎゅっとなる。
若いころのレッサーなら、
きっと“育児は手伝うもの”くらいの距離感だったのかもしれない。
でも今の彼は違う。
人生の折り返し地点なんてとっくに過ぎて、
仕事のプレッシャーも、家族の事情も、
いろんな重さを抱えてここまで来て、
やっと得た娘の存在。
その分、愛し方がゆっくりで、
深くて、
何より“真剣”だ。
ある夜、つーちゃんが寝返りしそうで、
二人でひざをついて見守っていた時のこと。
レッサーが小さな声で言った。
レッサーこんなに誰かをただ“眺めたい”って思う日が来るなんてさ……
若い時は想像もしなかったよ
私は胸の奥が熱くなって、
つーちゃんの小さな背中をそっとなでた。
カピー時間の使い方、変わったよね
レッサーうん。
仕事のことより、明日の会議より、
この子が今どんな顔してるかのほうが大事になった
それを聞いて気づいた。
私たち夫婦の“ちょっとヘン”は、
たぶん――
人生の後半になってようやく出会えた、
大切なものに対する素直さなんだ。
誰かにとっては当たり前の光景でも、
私たちにとっては奇跡に近い。
小さくて、儚くて、
あっという間に過ぎていってしまう今の時間を、
しっかり胸に焼きつけておきたくて、
だからつい、長く眺めてしまう。
寝息も、眉の動きも、手足のくねりも、
ふとした笑顔も、全部。
レッサーこんなに幸せな景色、
俺、あと何年見られるかな
レッサーがぽつりと言う。
私はすぐに答えた。
カピー何年でも、ずっとよ。
見られる限り、見ればいい。
だって今がいちばん綺麗なんだから
レッサーは涙が出そうな顔で笑った。
つーちゃんは小さな息を一つついて、
天使みたいな顔でまた眠った。
私たち夫婦は、ちょっとヘン。
でも――
この“ヘン”が、いちばん幸せだと思う。
なんだかんだ、娘のことになると必死になる夫婦
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